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夏の着物の汗抜き。冬の着物の汗抜き?

夏の着物の汗抜き。冬の着物の汗抜き?
梅雨も明け、厳しい暑い暑さが続きますね。
着物で出かけられる機会は少ないかと
思いますが最近では夏場でも、冬場でも
1年中、汗をかきやすい環境が増えています。

着物の汗ジミの変色。

着物の汗ジミを、そのまま放っておくと
変色してしまったり、カビが生えやすく
なる原因になってしまいます。

ここでは適切な着物の汗ジミ落としに
ついて考えていきます。

汗ジミには何が含まれるのか?

汗ジミを放置しておくと変色に
至ることがあります。

汗ジミも、食べこぼしの染みと同様に、
着物の色を変色させます。着物を十分に
乾燥させずに着物を片付けてしまうと湿気
がカビの生える原因になってしまいます。

また、衿裏のホックが錆びやすくなるなど
様々な影響を及ぼします。
汗ジミには何が含まれるのか?

どうしてそれが変色につながる
のでしょうか?

汗ジミの99%は水分だといわれます。
その他にも塩分、カリウム、マグネシウム
など。微量ですが乳酸や尿素等などの
老廃物も含まれます。

もちろん、汗そのものの影響もあると
思いますが、私は皮脂が混ざり合って
影響を与えていると考えています。
 
汗ジミを落とそうとすると洗浄に用いる
水が弾かれることが、よくあります。

中性洗剤を使用しないと、これでもか!
というくらいに水を弾きます。

塩分やミネラルだけでは、そこまで水を
弾くということは考えにくいと思います。

衣類の役割を考える時、保温は大切な
役割の一つですが暖房のおかげで、
冬場でも体温が上昇しやすい場所が増え、
皮脂などが汗に溶け出して混ざり合って
いるのではないかと考えています。

着物の広い範囲に水気を弾く部分が
広がっています。

これが汗ジミの変色に影響している
のではないかと思います。

皮脂の酸化について

酸化という言葉を聞かれたことは
ありますか?例えば「油の酸化」は空気中
の酸素と油が結合して起こります。

また何度も高温にさらされることによっても
「油の酸化」は起こります。

古くなった油や、揚げ物に使用した油は、
元の透明に近い色から次第に茶色く
くすんでいきますね。
あれが酸化した油の状態です。

着物の繊維に付いた油しみや、皮脂などは
時間の経過とともに酸化していきます。
その間に繊維への癒着が進み、洗剤を
使用しても黄ばみが落ちないだけでなく、
繊維を弱らせてしまうケースもあります。

けれど油ジミや、皮脂は水だけでは
落ちません。

ベンジンなどの油脂を落とすのに適した
溶剤を併用するのがベストだと思います。

そういった下処理を行ってから水を使用して
水溶性のしみ、汗の除去を行っていきます。

また、あまりにも広範に、そして沢山、
汗をかかれたケースでは、一定量の洗剤の
使用が必要になります。
 
単衣の場合は良いのですが袷の着物で
沢山の汗をかかれた場合は胴裏を部分的に
解いて十分に、汗や洗剤を洗い流して
いかなければならないケースも出てきます。

洗剤の残留から変色が起こってしまっては、
元も子もありません。

着物の汗ジミ抜きについて

・それでは実際に着物の汗ジミをご家庭で
落とせるかどうかについて考えてみたい
と思います。

着用後の着物を観察して、わずかにシワが
見られる。汗型は出ていないけれど着物を
着ていて暑かった、少し汗をかいたかもしれない。

そのように感じられれるようでしたら
霧吹きを使用して胸や脇、背中など汗を
かきやすい場所に、軽く水を吹きかけて
あげて下さい。

汗そのものを落とすことは出来なくても、
それで汗の成分を散らし、濃度を下げること
ができます。

シーズンの終わりくらいまででしたら、
それで持たせることができると思います。

けれど帯下の部分にハッキリとシワが
見えていたり、汗型があるのが確認
できるようでしたら一度、プロにお任せ
頂いた方が良いかもしれません。

生地の種類、金彩や刺繍の有無。
染めの種類によっては、ご家庭でも処置
できるものもあるかもしれません。

ですが着物によっては様々なリスクを
持っているものがあり皆さんに
扱える着物か?扱えない着物か?の判断
をして頂くのは難しいと思います。

ご自身で作業を行われ、事故を起こされた
お客様をたくさん見てきましたので
着物の手入れはプロにお任せ頂いた方が
安全というのが私の持論です。

・着物のシミ抜きは高額だと誤解されて
いることが多いように思いますが簡単な
染み落としは、それほど高額になることは
ありません。

ですが、着物に付いたシミや汚れは、
1週間、1ヵ月、3ヵ月、半年、1年
くらいのスパンで、どんどん落ちにくく
なってしまいます。

シミがついたまま、変色に至るまで放置して
しまうというのは実にもったいないことだと
思います。
 
不必要な出費を避ける為にも、早め早めの
ケアをご検討下さい。
当店では着物を着る機会の多い、
ヘビーユーザーの皆さまから
ご愛顧頂いています。
 
そして、皆さん、1シーズン着用されると
着物をメンテナンスに出して下さいます。

定期的に着物をケア、メンテナンスした方が
着物の維持管理費が断然に安いという
ことを皆さん、ご存じ頂いています。

また気軽にケア、メンテナンスに出して
頂けるように軽度のシミ落とし、汚れ落とし
に関しては割安にさせて頂いています。

標準的な汗ジミ抜きの方法

着物の状態を確認しながら、汗取りの方法を検討していきます。

下処理

特に汗をかかれやすい場所の状態を
確認します。

シワが酷く出ているようでしたら、
しっかり汗をかかれている可能性が
高いのでベンジンによる下処理、
丸洗いによって着物に付着した皮脂等、
油脂類を取り除きます。

袷の着物は、胴裏から作業を始めます。
表地のように縮みやすい生地が使われて
いることも少ないからです。

また胴裏で汗をかかれていた部分を
重点的に汗抜きしてやれば、表地のどこに
汗ジミがあるのか?も分かるからです。

水溶性のシミの除去

汗を伴って着物の生地同士がこすれて、
スレ、色落ち、金彩、刺繍の破損を
起こしていないか、確認しておきます。

それらを確認することで生地の繊細さ、
色の定着の堅固性や金彩、刺繍が水を
使った作業に耐えられるのか?
が分かります。

地色によっては非常に弱い色もあります
のでまずは小さな範囲でテストを
行います。

単衣などの場合はテストを行った後は直接、
汗をかかれやすい部分にアプローチして
いきます。

霧吹きで水を散布してやることにより
汗をかかれた部分を正確に特定します。

汗の程度に合わせて濃度を調整した
中性洗剤を使用して汗ジミを洗い流します。

単衣の場合は洗剤(薬品)の洗浄が
行いやすいのですが、袷の場合は胴裏も
あるため、薬品が残留しないように
バキュームを使用してしっかりと
洗浄していきます。

水の使用量によっては、寸法が縮んでしまう
可能性もあります。

お客様によっては着物の縮みを非常に
気になされる方もおられるので寸法を
測っておくことが大切です。

着物を購入された時点の着物と、着物を
着用されて汗をかかれた時点とで、
既に着物の縮みが起こっている
可能性もあります。

お仕立ての寸法が分かっている場合は
業者に対して、元々の寸法を伝えておく
ことによって、互いに誤解を避けることが
出来ると思います。

作業に取りかかる前に寸法を計っておけば、
汗などによって着物が縮んでいるか?
縮んでいないか?明確に分かるからです。

汗型の黄変について

はからずしも着物の汗ジミが変色に至った
場合は、ご家庭で変色を直すことは難しいでしょう。

クリーニングでは染料を使用して補正を
行う技術をお持ちの店は少ないと思います。

薬品だけで変色を直すことは難しいはず
なのでHPなどで着物の修繕をお願いする
業者の技術力を確認しておく必要があると思います。

変色直しの進め方

岡田美整では着物のシミ抜き、変色直しを
行うさいには、まず酵素や洗剤を
使用することから始めます。

もちろん、油脂の類が含まれる場合は
ベンジン等の有機溶剤の使用から始めます。

この辺はケースバイケースになります。

酵素を変色部分にぬり、フィルムで
ラッピングしてしばらく放置します。

その後、酵素で除去しやすくなった変色
部分に残っている汗ジミの残留成分を
洗浄していきます。

はじめから漂白剤を使用してしまうと、
変色に至っていない黄色いシミが
漂白できないばかりか、もう少し綺麗に
ならないかと、繰り返し漂白しているうちに
生地を傷めてしまうからです。

漂白しにくい、生地に残っているシミは、
酵素や洗剤の方が効果的に落とせます。
生地を脆化させ、弱らせてしまう漂白剤
ありきの染み落としは避けるべきだと
考えます。

変色に伴うリスクと漂白剤の使用に伴うリスク

食べこぼしなどによるシミの場合でも、
汗ジミによる変色の場合でも変色部分の
生地が弱っているケースがあります。

やはり着物に染みや汗ジミがついたままで
長期間、放置しておくことはデメリットが
増えるだけのように思います。

着物の染めに使われている染料によっては
漂白剤を使用しても、あまり脱色しない
ものもありますが、多くの場合は
着物の地色まで脱色してしまいます。

また着物の変色直しで使用されることの
多い酸化漂白剤は変色の色素を抜くだけ
でなく着物の生地を脆化させてしまう
という欠点もあります。

古い変色シミは、作業に入る前から、
すでに生地が弱ってる可能性があります。

酸化漂白剤の使用は弱った生地を、
さらに脆化させるという問題もあります。

岡田美整では出来る限り漂白剤の使用を
控えたいと考えています。

使用するにしても、少しでも薄い濃度の
漂白剤を、出来るだけ短い時間使用する。

生地にかかる負担を少しでも軽減したいと
考えています。

また変色が著しく進んだ変色に対して、
酸化漂白剤の使用にあたっては必ず
部分的な試験を行い、生地が作業に
耐えられるかどうかを確認します。

試験の結果によっては変色の修繕を、
お断りしなければならないケースも
ありますが、着物のデザインによっては
金彩加工や刺繍などを施すことによって
変色を隠してしまうなどの手法を
使用することもあります。

様々な加工方法を持つ強み

染色補正の強みは着物の生産段階での
加工業者の一部門であることです。

私達は着物を作る技術を生かして、
着物を修繕することもできます。

基本的にはシミの除去を目指して修繕に
当たりますが、生地の状態に対して適切
でないと判断すれば、様々な選択肢を
持っているというのが私達の強みだと
思います。

まとめ

・着物の汗ジミが変色を避けるために
必要なのは早期に処置を行うことです。

・着物の汗ジミや食べこぼしが、染みから
変色に至る前に適切な処置を行って下さい。

・シミの段階で処置を行えば、大幅に
修繕費用を下げられます。

着物の汗ジミや、食べこぼしを見つけるため
にも、着物を片づける前には一度、点検を
行って下さい。

・ドライクリーニングでは着物の汗ジミ、
水溶性のシミは落とせません。

着物の汗ジミ、水溶性のシミ落としも
同時にお願いしましょう。

・着物の生地を傷めやすい酸化漂白剤の
使用を抑えるためにも、汗ジミ、食べこぼし
の修繕は着用後1月くらいまでには
行いたいものです。

・不幸にも着物の汗ジミが変色にまで
進んでしまったら染色補正業に相談
することをお勧めします。

・着物の維持管理には専門家の
アドバイスと技術が欠かせません。

適切な加工を施し、皆さんの着物の
維持管理を手助けしてくれる専門家を
持つことで安心して着物の着用を
楽しんで下さい。